2019年に日産自動車から中国エンビジョングループに事業譲渡され、新たなスタートを切ったエンビジョンAESCジャパン。同社はそれまで基幹システム(ERP、BOM等)を日産データセンターで運用していましたが、事業譲渡によるシステムの移転をせまられることになりました。そこで同社はシステムの基盤の移転先を様々な利点からアマゾン ウェブ サービス(AWS)に決定し、日本、英国、米国の3拠点で利用している基幹システムを2020年末までに移行することとしました。その際には限られた時間内(48時間)で移行することが求められましたが、パートナーに選定したBeeXの支援もあって計画通りにプロジェクトを完遂。安定して高パフォーマンスな稼働を実現しました。
- 課題
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- 事業譲渡に伴い、基幹システムの移転が求められる
- ハードウェアの保守切れ等により、2020年12月末までの完全移行が必須に
- リソース不足かつタイムリーな増強ができないことによる、トラブルが頻発
- 解決したこと
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- クラウドサービスならではの迅速・柔軟な開発が実現
- リハーサルを重ねることで、国内外3拠点で稼働する基幹システムを48時間以内に移行
- インターフェースのボトルネックが解消され、トラブルがなくなり、操作時のレスポンスも向上
事業譲渡により基幹システムの移転が迫られることに
エンビジョンAESCジャパンは、2007年4月に日産自動車とNEC、NECトーキンの合弁で設立されたオートモーティブエナジーサプライ(AESC)を母体とし、2019年4月に中国の再生可能エネルギー事業者の大手・エンビジョングループの一員となりました。現在は日本、米国、英国の3カ所に工場を持っており、中国・無錫市に建設した新工場も稼働を開始し、生産能力の拡大を進めています。広報担当の人事総務部 総務課 課長 福島 大輔 氏は「日産の電気自動車『リーフ』のリチウムイオンバッテリーの量産を目的に設立されたという経緯もあり、現在は同社への供給が9割以上を占めています。今後はグループのシナジーを活かし、あらゆる自動車メーカーへ高性能のバッテリーを供給することを目指していきます」と語ります。
同社がエンビジョングループへ移るにあたり、課題の一つとなったのが基幹システムの移転です。同社は設立した当初から量産基盤としてSAP ERPを利用し、日産グループの共通プラットフォーム上で運用してきました。しかし事業譲渡により、SAP ERPに加えて部品表管理システム(BOM)やEDI連携システムなどの周辺システムを移転しなければならなくなったのです。この点についてグローバル情報システム部 部長の渡邊 貴 氏は「資産移管によりSAP ERPなどのシステムは譲渡の形となりましたが、その基盤は再構築が必要となり、周辺システムとのインターフェースや、国内外のネットワークも切り替えることになりました」と語ります。
システム移行構成図
AWSとSAP ERPの両方に関してノウハウがあり移行実績も豊富なBeeXの提案を採用
そこでエンビジョンAESCジャパンは、新たな基盤について検討を開始。海外展開を考慮し、グローバル対応可能なクラウドサービスを前提に選定した結果、AWSを提案したBeeXをパートナーに選びました。その理由について、グローバル情報システム部マネージャの谷 卓 氏は次のように説明します。「AWSはコストメリットとエンビジョングループでの実績を評価しました。一方BeeXは、AWSとSAP ERPの両方に関して多くのノウハウを有しており、移行実績も豊富です。さらに、クラウド専業ベンダーならではの先進的な社風、パートナーとしての将来性も加味して同社の提案を採用しました」
移行プロジェクトは2019年12月よりスタート。ハードウェアの保守期限の問題から、2020年12月末までの完全移行が必須でした。しかしその際には日本、英国、米国の3拠点で稼働する基幹システムを48時間以内で移行するという条件があったため、8月に1度目のリハーサルを実施して問題点を洗い出し、11月に2度目のリハーサルで再確認。その結果、年末に問題なく本番移行を終えることができました。常務執行役員 グローバル情報システム担当の飯田 英雄 氏は「1度目のリハーサルで不明確なプロセス、分担、想定外のトラブルによる数時間の超過が発生しましたが、2度目までに改善を実施し本番では想定時間内に収めることができました。入念な事前移行テストが必須という前提で、最初に全体計画を策定する際に2度のリハーサルの実施を計画したこと、1度目の問題点について2度目までに確実に改善したこと、などが今回の成功要因の一つであると考えています」と当時を振り返ります。
プロジェクト中は、関係するステークホルダーが多く、その調整が大変だったといいます。チームのメンバーは、日産を筆頭に、基幹システムのアプリ保守、周辺システム/新規導入システムなどの担当ベンダー、AWS上にSAP S/4HANAを新規導入する中国のグループ会社と合わせて13社。ただでさえ数が多い上に、期間中に発生した新型コロナウイルス感染症の影響で打ち合わせが全てリモートとなりましたが、各ベンダーの協力のもと定期的なWeb会議を開催し進捗確認を行いました。関係するベンダーが多いと従来の様な対面による打合せでは場所の確保や時間調整が大変ですが、むしろWeb会議が標準となったおかげでコミュニケーションがとりやすくなったことは、逆境の中でも新たな発見となりました。
「インフラとネットワークは、早期段階で整備しなければならないため、BeeXとはWeb会議を通して密にやりとりを行い、進捗が遅れないよう努めました」(谷氏)
加えて、今回のプロジェクトでは米国と英国の工場のシステムも同時に移行したため、海外とのコミュニケーションも必要になりました。同社は作業を効率よく進めるため、緻密なスケジュール表を作成。時差や休日を考慮しつつ、開発と確認作業がスムーズに進むよう工夫を行いました。
「BeeXの支援もあり、プロジェクトを無事終えることができました。同社に対して強く感じたのは、要件定義、設計、構築といった、きちんとしたプロセスを踏み、抜け漏れがないように対応していただけたことです。クラウドは初めてで、AWSの知識もなかった私たちにもわかるよう、かみ砕いて説明していただき、寄り添って対応していただけたことがうれしかったですね」(谷氏)
AWSへの移行によりシステム全体のパフォーマンスが向上。クラウドサービスならではの迅速・柔軟な開発も実現。
このたびエンビジョンAESCジャパンが構築した新たな基盤では、SAP ERPの本番/開発/検証環境に加え、周辺システムや新規導入システムなど合わせて約50台の仮想サーバー(EC2インスタンス)が稼働しています。さらに今回、BeeXの提案を受けてAWSの北米リージョンにDRサイトを構築し、BCP対策を強化。国内のサーバーが停止しても、すみやかに復旧できる環境を整備しました。
AWSへの移行によりストレージのリソース不足によるトラブルが低減され、システム全体のパフォーマンスが向上し、海外拠点からも快適に利用できるようになったといいます。
「旧システムはサーバーストレージのディスクがひっ迫していたせいで、ジョブが強制終了したり、途中でリカバリー処理が発生したりと運用で苦労していました。新しい環境はサーバーやネットワークに加えてETLツールも刷新したことで、インターフェースのボトルネックも解消されて、結果、トラブルが減少して、レスポンスも向上しました」(渡邊氏)
ほかにも、クラウドサービスならではのスピードや柔軟性にメリットを実感しているといいます。
「開発中にアプリ担当からサーバーの構成を変更したいといった要望が出てきたときには、以前は機器、OSの調達、導入に6カ月かかっていたところ、AWSではリードタイムなしで準備できました。その中でも、ロードバランサーが必要になる、という事をアプリ担当から急に言われたときに、クラウドベースのAWS ELBを1週間程度で用意できたことは驚きました」(谷氏)
「稼働後に新たなSAPのテスト環境が必要になった際も、環境自体は1日で構築しています。また、AWS最新の技術を採用することによる品質、コストの改善が見込める機器の変更についての提案も受けていて、今後も継続的に運用改善につなげていくことができる感触を得ています」(飯田氏)
クラウドアーキテクチャにシフト。さまざまなサービスの短期リリースを目指す。
エンビジョンAESCジャパンは基盤の運用・保守についてもBeeXに委託し、継続的に改善を続けており、コストダウンや新しいAWSの機能などの提案をもらい検討しています。基幹システムについては、最新バージョンのSAP S/4HANAの導入を検討しているとのことです。
「エンビジョンAESCグループ全体のIT戦略も考慮してSAP S/4HANAのアセスメントを進め、ERP Consolidation(統合) も含めて検討していきます」(渡邊氏)
また、今後の新規システムはAWS上への導入を基本とする方針です。
「AWSをIaaSとして利用した今回の移行は、既存システムをAWSに載せ換えただけです。今後はAWSのPaaS機能を積極的に採用しながら、クラウド型のアーキテクチャをうまく利用し、さまざまなサービスを短期間にリリースしていきたいと考えています。とはいえ、AWSに関する私たちの知識やノウハウはまだ乏しいため、BeeXには最新の情報提供やノウハウの伝授をお願いしたいと思います」(谷氏)
基幹システムのAWS移行というリフト&シフトから、AWSならではのサービスを積極採用しクラウドネイティブへ進んでいく。
世界的に脱炭素化が加速し、電気自動車への関心が一段と集まっている昨今、エンビジョンAESCジャパンはBeeXの支援のもと、システムのモダナイゼーションを進めていきます。
インタビューにご協力いただいた方々
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- 人事総務部 総務課長
- 福島 大輔 氏
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- グローバル情報システム部 マネージャ
- 谷 卓 氏 (情報処理安全確保支援士)
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- グローバル情報システム部 常務執行役員
- 飯田 英雄 氏
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- グローバル情報システム部 部長
- 渡邊 貴 氏
株式会社エンビジョンAESCジャパン
2007年に日産自動車とNEC、NECトーキンが合弁で、車載用高性能リチウムイオンバッテリーの設計製造会社としてオートモーティブエナジーサプライ株式会社(AESC)を設立。2019年4月に中国エンビジョングループの傘下に入り、社名もエンビジョンAESCジャパンに変更された。「持続可能な未来に向け挑戦し続ける」をミッションとし、「AIoTバッテリーにより脱炭素革命をリードする」をビジョンに、日本、英国、米国、中国の4拠点でリチウムイオンバッテリーの量産と次世代バッテリーの開発を進めている。
SAP は、ドイツおよびその他の国々におけるSAP SEの登録商標です。
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