目次
【はじめに】
2024年9月12日に「今こそ見直したい「AWSコスト」管理 ~ 効果的なコスト管理の考え方とFinOpsの実践 ~」というセミナーを開催しました。今回はその講演内容のポイントについてご紹介します。
なぜ、AWSコストは「最適化」ではなく「管理」が重要なのか?
まず、AWSコスト管理に関わるよくある課題を踏まえ、クラウドを活用する上でコスト管理の重要性を説明しました。システム運用のコストを考える際、「削減」「最適化」という言葉が使われますが、このセミナーでは、より抽象度を上げる意味でも「管理」という言葉を用います。クラウドを利用することは単純にお金が支出するだけではありません。コストを管理することは、クラウド運用における重要な要素の1つであると捉えています。AWSコスト管理に関わるよくある課題としては「コストを分析してみたいけれど、クラウドの仕組みがよく分からない」「複数アカウントの利用料を簡単に全部まとめて確認したい」などが挙げられます。
また、組織内のAWS利用が進むにつれて、複数のAWSアカウントを保有することになります。その結果、利用料がどんどん上昇していきます。全体の利用料の内、どのプロジェクトでどれくらい利用しているかという社内配賦ルールが複雑になり、配分作業の手間がかかることもあります。さらに「Microsoft Excel」などで管理してきた場合、現在のルールのメンテナンスも難しくなって「既存のルールが合っているかもよく分からない」ことも起きています。
続いて、なぜAWSコスト管理が重要なのかを紐解いていきましょう。
クラウドを活用すると、ビジネス環境の変化に追随できる柔軟なリソースの確保や「AI(人工知能)」などの最新IT技術を取り込むができます。
そして、企業・組織がAWSクラウドを活用して実現したいこととは、スケーラビリティやアジリティを備えた柔軟にリソースを増減できるIT環境の構築、より高度なイノベーションをより簡単に実現することです。コスト削減の施策として利用することもありますが、その根源(根っこ)には「ビジネスの競争優位性を確保する」ことにあります。
企業のシステム運用は、AWSクラウドによってどのように変化してきたのでしょうか。
これまで多くの企業がハードウェアを調達して自社やデータセンターに配置し、自社のシステムを運用してきました。リソース調達に関しては、IT部門のみならず経理部門などが関与し、事前の予測に基づいた妥当なリソースを確保してきました。
一度調達してしまえば既にコストが発生しているので、どのように使うかという意識はあまりなく、システムの規模を縮小した場合は、ハードウェア自体は保有したままなのでコスト削減とは直接結びついていませんでした。
また、5年間のハードウェアの償却期間であったり、データセンターの利用容量などもほぼ固定されているため、四半期や年1回などの期間で費用計算をして報告することで特に問題がない状況でした。
一方、クラウドを利用する場合は、スケーラビリティやイノベーションの実現という観点で、担当エンジニアが状況に合わせてリソースを調達します。少量からの個別料金で利用することから柔軟にリソースを変動させるため、事前のコスト予測が困難になります。
コスト管理が確立していないと、PoCでの利用や移行で実現したAWS環境の価値を説明することが困難になってしまいます。また、オンプレミスのサーバーをクラウドに「Lift&Shift」で移行した後、クラウドの特性に合わせた変更やマネージドサービスを活用しないと費用対効果が出せなくなることもあります。加えて、個々のエンジニアの判断でリソースを確保したことで、コスト、セキュリティ、コンプライアンスへの対応が不均一になる可能性も生じてきました。ITリソースの活用方法が変わることで、システム運用のコスト管理の方法も適切に変化しなければいけません。
そうした状況の中、近年、クラウド利用におけるコスト管理手法として注目されているのが「FinOps」という考え方です。
クラウド利用の価値を最大化するためのコスト管理の考え方として注目される「FinOps」とは?
次に、AWSのコスト管理において、クラウドの支出を最適化し、クラウドリソースの効率と価値を最大化するための手法である「FinOps」について、その概要や狙いを紹介しました。
FinOpsとは「Finance」と「DevOps」を組み合わせた言葉です。様々な役割を持つ人々がコミュニケーションとコラボレーションをすることで、クラウドの価値を最大化するためにデータに基づいた協業を推進する取り組みを指します。
また、Linux Foundationのプロジェクトの一つとして、コスト管理におけるベストプラクティスや標準、教育を促進するために「FinOps Foundation」と呼ばれる団体が設立されています。
クラウドサービスが変われば、利用料の算出や請求の仕方なども変わってきます。そこでより一貫性のあるコストと使用量のデータセットを作成するためのオープンソース仕様である「FOCUS」の策定などに取り組んでいます。AWSもFOCUSによる課金ログ出力が可能です。
クラウド利用の価値を最大化するためには、クラウドの利用量が増加してITによるイノベーション効率が上がることで、より良い製品・サービスやシステムでビジネスの成果を出すという持続的な成長を生み出すための循環的な仕組みが必要です。FinOpsは、このサイクルに加えて、ITによるイノベーションの実現や効率を上げるもう1つのサイクルも同時に回す仕組みとして位置づけられています。
管理という言葉は、日本的な感覚では「定められたルールに則る、ブレーキをかける」という意味合いで捉えられるかと思います。FinOpsではブレーキをかけるというよりは、イノベーションや効率を最大化するための活動という観点で理解した方がよいでしょう。
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