日本で最も長い歴史を持つ総合不動産会社として、ビル事業、住宅事業、アセットサービス事業などを展開する東京建物株式会社。2008年より会計システムにSAP ERPを利用してきた同社は、既存サーバーの保守サポート終了を機にアマゾン ウェブ サービス(AWS)への移行を決断。SAPシステムの移行案件で実績のあるBeeXの支援を受け、約4カ月で移行を実施した。
- 課題
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- ハードウェア運用負荷の低減
- インフラ運用のランニングコストの削減
- BCP(事業継続)対策
- 解決したこと
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- ハードウェアの更新や運用からの解放
- ランニングコストの削減。5年間でTCO(総保有コスト)の削減も実現する見込み
- クラウド上で容易に再構築が可能となりBCP対策も強化
ハードウェアの定期リプレースや物理サーバー運用の負荷を軽減
120年を超える歴史を持つ東京建物は、主力のビル事業と住宅事業に加え、アセットサービス、駐車場、リゾートなどの新たな事業を第3の柱として強化している。最近では東京・豊島区の旧庁舎跡地の再開発を手がけるなかで豊島区立芸術文化劇場を「東京建物 Brillia HALL」とするネーミングライツを獲得。さらに、中国・アジアへの事業投資なども積極的に行っている。
同社は会計システムとして1998年にERPパッケージを導入。その後、2008年に最新のビジネスに対応したSAP ERPにリプレースした。以来、物理サーバー上で約10年間運用を続けてきたが、ハードウェア保守契約終了を見据えてクラウドサービスへの移行を決断した。企画部 グループシステム統括部長の鳴海徹氏は次のように説明する。
「ハードウェアの定期的なリプレースを考えると、サーバーの調達や構築が不要なクラウドにコスト面でメリットがあると判断しました。日常的なインフラ運用、セキュリティについても、クラウドサービスで利用したほうが負荷は少なく、BCP対策としても有効です」
AWS移行実績の豊富さとプロジェクトマネジメント力を評価
東京建物は初めての基幹系システムのクラウド化にあたり、多くの企業で運用実績があり、導入パートナーの数や技術者も充実しているAWSを選定。移行を支援するパートナーには、3社の提案を比較した中からBeeXを指名した。決め手はSAPシステムのAWS移行案件の豊富な実績、技術や経験に裏付けられた提案力にあったと、企画部 ICT戦略推進グループ グループリーダーの宮塚則之氏は語る。
「提案時の説明がわかりやすく、プロジェクトマネージャー(PM)やコンサルタントの技術力に信頼感を持てました。プロジェクトにおいては、インフラの構築や移行作業に加え、SAP ERPのアプリケーションや周辺システムの移行を担当するITベンダーを束ねるマネジメント力も必要となります。管理体制も含めて検討した結果、BeeXに任せるのがベストと判断しました」
4カ月で移行を実施 本番システムの停止は9時間のみ
プロジェクトは、2018年11月にスタート。AWS上に環境を構築後、2019年2月にSAP ERPの本番機の移行リハーサルを実施し、問題点をクリアにしてから3月16、17日の2日間で本番環境を移行。SAP ERPのサービス停止は本番環境を移行した前日の営業時間終了後から移行日のみで、それ以外はシステムを稼動させたまま非同期でオンプレミス環境のデータをAWS上に転送している。データをAWS環境にコピーする際は、データの転送量や速度を工夫してネットワークに負荷をかけず、日常の業務に影響を与えないようにしたという。経理部 経理グループ 課長の木村淳一氏は次のように振り返る。
「BeeXから通常の土日の2日で移行できるという提案をいただき、スケジュールを柔軟に設定することができました。ユーザーロックは念のため24時間にしましたが、実際にサービスを止めたのは移行当日の9時間のみで、翌日は社内でジョブの動作確認を進めることができました」
今回、移行にあたって、SAP ERPのアプリケーションのバージョンアップやエンハンスメントパッケージ(EhP)の適用は行っていない。その結果、大がかりなシステム改修は発生せず、テストの工数も最小限で済んだ。ユーザーも変化を意識することなく利用が継続できている。
プロジェクトでは、BeeXがプライムベンダーとして全体のマネジメントとSAPのBASIS層の移行を担当し、SAPのアプリケーションや周辺システムの移行を担当したベンダーを管理。予定通りのスケジュールと予算で移行を終えた。
「私たちにとって、ここまでトラブルも少なくスムーズに終わったプロジェクトは初めてです。BeeXによる全体のマネジメントには非常に満足しています」(鳴海氏)
ランニングコストの削減と運用時の負荷軽減が実現
東京建物は現在、AWS上でSAP ERPの本番機、検証機、開発機の他、EDIシステム、シングルサインオン、監視ツールなど、10台のAmazon EC2インスタンスを稼動させている。移行によってパフォーマンスも向上し、会計レポートの出力時間が半減したものもあるという。
インフラ面では、ランニングコストの削減につながった。「5年単位でハードウェアを入れ替えるオンプレミス環境と異なり、AWSなら更新の負荷やコストがかかりません。5年後のリソース量をあらかじめ想定してハードウェアを調達する必要もなく、柔軟な構成が可能です」(宮塚氏)
また、ハードウェアを持たないことで、機器が故障した時の調達や要員の確保などがなくなり、運用時の負荷軽減が実現。以前はバックアップ装置の故障などに対応が必要だったが、AWS移行後はスナップショットでコピーを取るだけで、障害時も簡単に復元できるという。
東京建物株式会社 移行後のシステム概要図
インフラリソースやコストの最適化とビジネスのデジタル化を推進
稼動後は、AWSの運用・保守をBeeXに委託し、定期的にインフラリソースの見直しを進めている。
「メモリーサイズやCPUのスペックが適当かを定点観測しながら、必要に応じてリソースを最適化する提案をBeeXに期待しています。インスタンスについても、従量課金/定額割引のリザーブドインスタンスのどちらがいいのかといった判断を行い、コストの低減を進めていきます」(木村氏)
オンプレミス環境で稼動している他の基幹系/情報系システムについても、必要に応じてクラウドやSaaSの活用を進めていく方針だ。すでにOffice 365やSAP Concurなどを導入済みで、今後もいくつかの領域で導入を検討しているという。
さらにICT戦略推進グループが主導するデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、RPAをはじめとするデジタルテクノロジーの活用にも意欲的だ。「BeeXにはAWSを活用したサービスの専用部隊もできたと聞いています。生産性向上に寄与できるテクノロジーは取り入れていきたいと考えており、DXを含めて新たな提案にも期待しています」(鳴海氏)
「お客様第一の精神」と「進取の精神」を企業活動の原点に、豊かな社会づくりに貢献する東京建物。クラウド基盤を活用しながら、同社はさらなる挑戦を今後も続けていく。
インタビューにご協力いただいた方々
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- 企画部 グループシステム統括部長
- 鳴海 徹 氏
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- 企画部 ICT戦略推進グループ グループリーダー
- 宮塚 則之 氏
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- 経理部 経理グループ 課長
- 木村 淳一 氏
東京建物株式会社
ビル事業では、都市と自然の再生を実現した「大手町タワー」や、国内最高水準の環境配慮型オフィスビルを実現した「東京スクエアガーデン」などを手がける。現在は、東京駅前八重洲一丁目の開発事業や、豊島区庁舎の跡地に建設が進む「豊島プロジェクト(仮)」などの大規模な空間創りに参画している。住宅事業では、「洗練と安心」をコンセプトとする「Brillia(ブリリア)」をブランドとした分譲住宅事業と、都心立地を中心に開発・運営を行う賃貸住宅事業を行っている。
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