情報・通信とライフケアを中心に、グローバルに事業を展開するHOYA株式会社は、90年代後半からSAP ERPを導入し、海外を含むグループ約120社で活用してきた。2013年末には運用基盤をアマゾン ウェブ サービス(AWS)にマイグレーション。株式会社BeeXの支援のもと、運用ノウハウを蓄積しながらパフォーマンスとコストの最適化を進め、グループ会社の増加といった環境変化にも柔軟に対応している。
- 課題
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- コスト低減
- 監査対応の負荷低減
- 効果的な災害対策
- 解決したこと
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- クラウド化によりハードウェアの更新や運用から解放され、より重要な業務へ注力可能に
- SOC1レポートの提出
- 安価なDR運用環境構築と、定期的な災害対策テスト実施による確実性担保
インフラコストの最適化を目指してAWSの活用を決断
HOYAは光学技術を軸に多角化を進め、半導体やデジタル機器を支える最先端の情報・通信分野から、メガネやコンタクトレンズ、内視鏡など人々の生活を支えるヘルスケア分野で、さまざまな形で社会に価値を提供している。現在、世界30カ国以上に約140の連結子会社を持ち、海外の売上比率は70%に達している。
複数の異なる事業を展開する同社において、ITシステムの企画/開発/運用は各事業部の情報システム部門が担っている。一方、グループ共通の財務会計および連結会計のシステムについては、財務部が本社および連結子会社全体を統括。1997年にはSAP ERPを本社に導入し、海外を含むグループ各社にスピード展開した。
財務部は2009年頃、SAP ERPの基盤をUNIXからWindowsに移行するとともに、パブリッククラウドを導入してハードウェアの制約を排除し、コスト効率を高める体制を検討した。しかしその時点で必要なハードウェアスペック、コストなどを検討した結果、プライベートクラウドを採用。
そして2013年、ようやくパブリッククラウドを採用するメリットが見えてきたことから、AWSへの移行を決断する。複数のサービスの中からAWSを採用した理由について、財務部 ITグループの守谷祥広氏は次のように語る。
「SLAが明確に定義され、障害発生の情報も少なく安心して利用できると判断しました。また当時いち早くSAP ERPの稼働認定を取得済みで、性能面での懸念も事前のPoCを実施することでクリアしました」
クラウドへの移行と新たに追加したBCP/DR環境の構築をわずか2カ月半で完了し、2013年11月には本社やグループ会社を含むすべてのSAP ERPがAWS上で稼動した。その効果について財務部 ITグループの金光和純氏は、次のように振り返る。「プライベートクラウドと比較して、約50%~60%のコスト削減を実現できました。また従量課金の保守サポートを採用したことで運用維持費も軽減しています。さらに、AWSの複数リージョンを活用したBCP/DR対策も実現したことも大きな成果です」
長期割引のインスタンス変更によりインフラコストを約10%削減
移行後のインフラ運用については、BeeXのワンストップ運用保守サービスを利用し、現在まで機能強化や運用改善を重ねている。SAPシステムは現在、本番環境5(アジア、欧州、米国、連結会計、資金管理)、開発・試験環境8の合計13インスタンスの構成だ。
AWS上でのERP運用を開始したHOYAにとって、思わぬ誤算もあった。開発機や検証機では従量課金のオンデマンド利用が有効だが、本番機のようにリソースが緩やかに増えていくケースでは、長期コミットで割引率が高くなる「リザーブドインスタンス(RI)」のメリットが大きい。契約期間は1年/3年から選べて長期契約ほど割引率は高くなるが、当時、契約期間中はインスタンスが変更できないといった制約があった。
「投資効果を考えてリザーブドインスタンス(RI)を3年契約で採用し、確かにコストメリットは得られました。しかし契約期間中、AWSから新しいインスタンスがリリースされても、3年間は新インスタンスへ乗り換えられませんでした」(守谷氏)
3年契約終了後、新たなインスタンスに乗り換えた。インスタンスの変更自体は管理画面上から設定するだけで終了したという。
「新構成への変更もBeeXに依頼しました。それまでの運用実績からI/O性能、CPUスペック、メモリー、ディスク容量などを分析してサイジングを行い、さらに今後の事業成長なども考慮して、最もコストパフォーマンスの高い構成案を提案していただきました」(守谷氏)
新構成の採用により、インフラコストの最適化は一気に進んだ。金光氏は「約10%のコスト削 減ができました。最初の移行時からは連結子会社の数が20社近く増えてトランザクションの量が増加していますが、パフォーマンスを落とすこ となくコストが削減できています」と語る。インスタンスの性能分析レポートはBeeXから毎月提供され、随時チェックしながら必要があれば対応を依頼している。
HOYA様システム構成図
AWSとBeeXから提供されるSOC1レポートで監査業務を効率化
AWSに移行してからも、HOYAではさまざまな課題に対応してきた。
同社はAWSのユーザーコミュニティに参加して最新情報を収集し、BeeXからも随時情報提供や改善提案を受けている。また、BeeXから提供されるAWS上のシステム運用に関するSOC1レポートも、監査対応に役立っている。
「SAP ERPはもちろん、それ以外のシステムに関しても、AWSの運用に関することはひととおりBeeXに任せることができ、コスト低減や運用の高度化に関する提案も含め、非常に頼りにしています。その分、社内ではアプリケーションの保守や、本来の会計に関する業務など、付加価値の高い領域に注力できます。IT監査についてもAWSとBeeXから提供されるSOC1レポートをそのまま活用できるため、我々はアプリケーション部分の監査レポートの作成に集中できるようになりました」(金光氏)
「SOC1 Type2報告書」は米国公認会計士協会 (AICPA: American Institute of CPAs) が定める米国保証業務基準AT801 (旧名称SSAE16) 準拠した保証報告書です。第三者監査人による 内部統制のデザインの適切性および 運用状況の有効性に関する報告書となります。
AWS上に管理会計用のインスタンスを追加して予実分析の実現へ
HOYAは今後、情報分析機能用にインスタンスを追加し、タイムリーに情報を提供していく予定だ。守谷氏は「財務データや非財務データなどを利用し、ユーザー主導で分析ができる環境を構築していきたいと思います」と展望を述べる。また、将来的にはBeeXとともにAIや機械学習などの新しいテクノロジーを活用し、システム運用を自動化/高度化していく構想も描いている。
HOYAがAWSの利用を決断した2013年当時、日本企業の多くはパブリッククラウド上でのSAPシステム稼動に踏み切っていなかった。しかし同社はいち早くAWSに移行し、試行錯誤しながらインフラコストを低減してきた。そのチャレンジの過程は、これから続く企業にとって大いに参考になるはずだ。
インタビューにご協力いただいた方々
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- 財務部 ITグループ
- 守谷 祥広 氏
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- 財務部 ITグループ
- 金光 和純 氏
HOYA株式会社
創立1941年11月1日(設立:1944年8月23日)。情報・通信とライフケアの事業領域において、ヘルスケア、メディカル、エレクトロニクス、映像の4セグメントでグローバルに事業を展開する総合光学メーカーです。
SAP は、ドイツおよびその他の国々におけるSAP SEの登録商標です。
アマゾン ウェブ サービスおよびAWSは、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
その他記載されている、会社名、製品名、ロゴなどは、各社の登録商標または、商標です。
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