ガラスを軸とした総合素材メーカーであるAGCは、2014年以降SAP ERPをはじめとした200以上のシステム基盤をアマゾン ウェブ サービス(AWS)へと移行するとともに、AGCグループ向けにAWS上で稼働するシステムの標準カタログサービス「Alchemy」(アルケミー)の提供を開始しました。そして同社は次のステップとして、AWSの最新技術を利用した新しい取り組みにチャレンジするため全社共通データ活用基盤(データレイク)の構築に着手。BeeXの支援を受けつつ、AWS上にエンタープライズ・データレイクを稼働させました。同社はこれを「VEIN(ヴェイン)と名付け、グループ内のデータ活用基盤サービスとして発展させていく方針です。
- 課題
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- 「攻めのビジネス」のさらなる推進を目指したい
- データドリブン経営を実現したい
- 「ビッグデータベース」構想のための基盤を整備したい
- デジタル化に向けて新たな取り組みを進めたい
- 解決したこと
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- 「エンタープライズ・データレイク」が実現した
- クラウド型データ活用サービス「VEIN」をグループ内に展開
- データ活用基盤にまつわる悩みを解決することで、事業部は分析に集中できるように
- 情報システム部門にアジャイル開発の経験が蓄積され、経営への貢献に向けた意識変革も進む
システムランドスケープ最適化。なるべく手間なくデータ活用ができるよう汎用化してカタログに。
グループ内200以上のシステム基盤をクラウド化。AWSの標準カタログサービスも展開。
ガラスを軸とした総合素材メーカーであるAGC。同社は建築・自動車・産業用製品、電子部材、化学製品、セラミックス等の製造・販売のほか、5G対応ガラスアンテナなど最先端の技術を駆使した製品の開発でも知られています。2018年には社名を従来の「旭硝子」から現在の「AGC」へ変更するとともに、グループの企業姿勢を明示したブランドステートメント“YourDreams, Our Challenge”を制定しました同社がシステム基盤のクラウド化に着手したのは、成長のための投資を本格化させた2014年のことです。第一弾となったのは長年ホストコンピュータ上で稼働していた基幹システムで、これをSAP ERPに刷新。インフラにAWSを採用しました。当時のいきさつについてグローバルITリーダー情報システム部長の伊藤肇氏は「2011年に発生した東日本大震災をきっかけに、BCP(事業継続計画)対策を強化することになりました。当初はデータセンターの増設を検討したのですが、ハードウェアや設備にかかるコストが倍以上になってしまうため断念。そこで、BCP対策とコストを両立できる基盤として、クラウドであるAWSを採用したのです」と振り返ります。
SAP ERPの成功を見た同社は、グループ内にある200以上のシステム基盤のクラウド化を決断。その移行は、システムをそのままクラウド基盤に載せ換える「リフト&シフト」の方針のもとで行われました。同社はBeeXをパートナーに、5年がかりでシステム移行を完了。この事例は社外からも大いに注目を集め、同社の先進性が広く世間に認知されることとなりました。「AWSへの移行によってBCP対策やコスト軽減が実現したと同時に、提案型のプロジェクトとしてグループ内へ発信することができ、情報システム部の文化も大きく変わりました」(伊藤氏)
さらに同社は2016年11月、社内の各部門がAWS環境を手軽に利用できるよう、標準カタログサービス「Alchemy」(アルケミー)の提供を開始しました。これは、先の移行プロジェクトが進むことで、他のシステムもAWS上で動かしたいという要望がグループ内に拡がっていくと考えたためです。情報システム部 電子・基盤技術グループマネージャーの大木浩司氏はAlchemyについて「技術に詳しくないユーザーでも簡単な手続きだけでA W S のサーバー、データベース、ストレージ、ネットワークなどが使えるよう、サービスを標準化しました。
製造業のデジタル化に向けてデータレイクの構築を決断
さて近年の製造業では、IoTの活用などデジタル化によって製品やサービスに新たな付加価値を提供する動きが活発化しています。AGCでもこうした「攻めのビジネス」を支援すべく、AWSの各種サービスが利用できる新たな標準カタログサービス「Chronos」(クロノス)を2017年にリリースしました。Chronosについて情報システム部 デジタル・イノベーショングループ プロフェッショナルの三堀眞美氏は「開発・改善のスピードを重視した、いわゆる“モード2”に対応するための基盤として、情報システム部がリードするかたちで作成しました。きっちり標準化されたAlchemyに対し、Chronosでは柔軟性を重視しており、PoCを実施しながらアジャイル的な開発ができる環境として提供しています」と説明します。
そしてChronosの活用が進む中、新たなビジネスニーズとして浮上してきたのが「データ活用」です。昨今はクラウドの登場によってパラダイムシフトが起こり、データをいかに収集するかが重要性を増しています。同社でもデータドリブン経営の実践を模索する途上で、C h r o n o sをベースとしたビッグデータベース構想が生まれました。基幹システムに蓄積されていく構造化データと、製造データや機器データなどの非構造化データを一元的に保存するデータレイクを構築し、クラウド型データ活用サービス「VEIN」(ヴェイン)としてグループ内へ提供することにしたのです。「かねてより事業部から固有に持っているシステムのデータやIoT系のデータを活用したいというニーズが寄せられていました。そこで、情報システム部がリードを取るかたちで、グループ内で利用できるデータレイクをChronos上に構築。あらゆるデータを連携し利用できるサービス基盤を用意することにしました」(大木氏)
AWSを熟知し、基幹システムの実績も豊富なBeeXをパートナーに選定
VEINの開発パートナーについて、AGCは複数の候補の中からBeeXを選定しました。その理由としては、システム基盤のAWS移行やAlchemyおよびChronosの構築など、同社における過去の実績はもちろん、BeeXの持つ高い技術力とノウハウが評価されたといいます。この点について情報システム部 デジタル・イノベーショングループ マネージャーの瀧田美喜子氏は「BeeXがAWSパートナーネットワークにおいてアドバンスドコンサルティングパートナーであり、AWSの最新技術に詳しいというのが大きかったですね。データレイク自体が当社にとって未知の技術であるため、一緒になって考えていただける柔軟な対応力を重視しました。また、エンタープライズの基幹システムの実績が豊富なBeeXのアーキテクトがご支援くださるというのも安心感がありました。尖り過ぎたり、保守的過ぎたりしない、バランスの取れた基盤が構築できると考えたのです。実際、アーキテクトにお会いしてみるとたいへん熱意のある方で、ゼロから共に作っていくパートナーとして信頼感を持ちました」と語ります。
ユーザー部門と共同でアジャイル開発を進める
VEINの構築は2018年12月、工場系事業部への導入からスタート。データレイクは現場のユーザーに使ってもらってこそ価値が出るという考えのもと、情報システム部とBeeXに加えて事業部のユーザー部門の3者による共同体制で設計、構築を進めました。2019年3月にはデータレイクのテスト基盤が完成し、工場の実データを使って検証を開始。半年後の9月にはデータを「貯める」「集める」「入れる」「取り出す」「見る」「使う」の機能を網羅したデータ活用基盤が稼働しています。「ユーザーからどんなデータが欲しいか、どんな情報を見たいかといった要望を聞き、プロトタイプを作りながらアジャイル的な開発を進めるスタイルは、私たちにとっても初めての経験で、非常に新鮮でしたね。最初にデータをつないでみたところ、思ってもみない課題も出てきましたが、3者で対話を重ねながら、徐々に理想的な基盤に近づけていきました」(瀧田氏)
開発の際にポイントとなったのが、AWSの新機能への対応です。AWSでは日々新しい機能がリリースされていますが、中でもDWHサービス(Amazon Redshift)やデータ変換ツール(AWS Glue)などは開発ペースが早いため、柔軟な対応が求められます。そこでAGCでは、随時進め方を調整しつつ開発を進めました。その際には、データ転送から保管まで、セキュリティを担保した環境の構築を意識したといいます。「エンタープライズのデータレイクに求められるセキュリティレベルを維持するため、基幹システムを運用するAlchemyと攻めのビジネスを実現するChronosの双方と連携を取りながら、セキュリティとガバナンスを担保しました」(三堀氏)
工場系事業部への導入が終わった後も、別の事業部から「VEINを利用したい」という依頼が寄せられており、同社では現在、複数のプロジェクトを進めているとのことです。
VEIN〜ヴェイン〜AGC共通クラウド型データ活用サービス
~デジタル技術を活用して全社で新しい価値の創造を~
- クラウド型全社共通データ活用基盤
- 使えるサービスを限定
- データ容量無制限かつ耐障害性にすぐれたストレージ
- データ転送から保管まで、セキュリティが担保された環境
- VEIN にデータを入れれば、分析に最適な形で保管
- データ活用時の悩みを解決、分析に集中
- 必要なデータがどこにあるかわからない
- データの容量が大きくて保管する場所がない
- データ保管のセキュリティが心配
- データ分析した結果の共有が難しい
- VEINは進化し続けるサービス
- VEIN活用ユースケースをきっかけに標準化・横展開
- 日々進化するデジタル技術をAGC全体で利用
- 利用者が増えるほど、新たな価値を提供できる!
データ活用にまつわる悩みを解消。事業部は分析への集中が可能に。
VEINを活用したデータ集積・活用フロー
VEINは、AGCおよびグループ各社を対象としたデータ活用基盤であり、新しい価値を創造する役割を担っています。その名称は、V a r i e t y( 多様性)、V e l o c i t y( 速度)、Volume(量)の3つの言葉の頭文字である「V」と、Enterprise Intelligenceを組み合わせたもので、Veinという単語自体にも「鉱脈」といった意味があります。
VEINの中心にあるのが、オブジェクトストレージのAmazon S3を採用したデータレイクです。このデータレイクには、あらゆる形式の大規模データ・大容量データを安全かつ長期間にわたって保管できます。VEINに投入されたデータは、分析に最適なかたちに変換して保管され、セキュリティも担保されています。
VEINを利用することで、ユーザー部門は「必要なデータがどこにあるかわからない」「データの容量が大きく保管する場所がない」「データ保管のセキュリティが不安」「分析結果の共有が難しい」といったデータ活用にまつわる悩みから解放され、分析に集中することが可能になります。また、情報システム部においても、事業部のニーズに応じてスピーディかつフレキシブルにデータ活用の環境が提供できるVEINの導入は大きなメリットをもたらしました。
「グループ共通のデータ活用基盤を用意することで、個別に環境を構築する場合と比べて、10分の1以下にコストを抑えることが可能になりました。提供のスピードも個別なら1年以上はかかるところ、1カ月もあればデータが可視化できる環境を用意できます。クラウドなので新たな機能の追加やサービスの停止も簡単、やりたいことをすぐに試すことができます」(瀧田氏)
2014年からスタートした同社の情報システム改革において、今回のVEINの導入は大きなインパクトがありました。これまで情報システム部門は、ビジネス部門の要望に対して、いかに誠実に応えるかを重視してきたのですが、今回のアジャイル的な開発が成功したことで、受け身の姿勢から脱却し、自らユーザーに対して新たな付加価値を提供しビジネスに貢献することが可能になりました。「結果、情報システム部門には現状に留まることなく常に進化を続けることが求められるようになっています。ゆえに今後は、これまで蓄積した技術のさらなる進化に取り組み、製造、物流、営業、サービスなどのビジネス部門に対して積極的に情報を発信しながら、ポジティブなスパイラルを回していくことが必要となるでしょう」(伊藤氏)
VEINのユースケースを横展開。デジタル技術をグループ全体で活用したい。
VEINは留まることなく進化を続けるサービスであり、利用者が増えれば増えるほど新たな価値を提供することが可能になります。AGCでは、今後も事業部の要望に応じて横展開を進めながら機能を強化し、ユースケースをもとに標準化を進めていく考えです。そしてこれをカタログ化することで、日々進化するデジタル技術をグループ全体で容易に利用できるようしていくといいます。
「多くの事業部で導入が進み、データが集まるようになれば、新たな相談が寄せられることも増えるでしょう。情報システム部としてはユーザーニーズを予測しつつ、AIや機械学習といったデジタル技術を活用したサービスも導入し、最終的にはVEINをエンタープライズの新たなプラットフォームに進化させることが目標です」(三堀氏)
これまでのプロジェクトを支援してきたBeeXに対しては、ワンチームとしての対応力を高く評価。今後も継続的な支援を期待しています。「今回のプロジェクトは事業部との信頼関係を築くため、内製化を意識して進めました。内製化を正しく遂行するためには、パートナーの力を借りながら事業部に対して新しい技術を提案、構築を支援していく必要があったのですが、その点でBeeXは自分ごとの問題として捉え、会社の垣根を越えて成功に導くためのアイデアを出してくれました。おかげでプロジェクトは成功を収め、新しいかたちの内製化が実現できたと思います。今後もBeeXと共に、社会に価値を提供できる新しいサービスを開発していければと思っています」(瀧田氏)
BeeXは、今後も高度な技術力と高品質なサービスにより、AGCが進めるクラウドジャーニーを支援していきます。
世界初のガラスアンテナを用いた「窓の基地局化」(AGC社提供)
インタビューにご協力いただいた方々
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- グローバルITリーダー 情報システム部長
- 伊藤 肇 氏
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- 情報システム部 電子・基盤技術グループ マネージャー
- 大木 浩司 氏
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- 情報システム部 デジタル・イノベーショングループ マネージャー
- 瀧田 美喜子 氏
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- 情報システム部 デジタル・イノベーショングループ プロフェッショナル
- 三堀 眞美 氏
AGC株式会社
1907年に岩崎俊彌が設立。1909 年に日本で初めて板ガラスの製造に成功して以来、「ガラス」「電子」「化学品」「セラミックス」等の分野において、新たな価値創造に挑戦を続けてきました。建材や自動車、エレクトロニクスなど産業界へ幅広くソリューションを提供しており、近年は各事業分野で培った多様な技術を融合した新規事業を推進。ガラス一体型デジタルサイネージ、ガラス製透明スクリーン、大容量データ対応のプラスチック光ファイバーなどを国内外の市場に送り出しています。
SAP は、ドイツおよびその他の国々におけるSAP SEの登録商標です。
アマゾン ウェブ サービスおよびAWSは、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
その他記載されている、会社名、製品名、ロゴなどは、各社の登録商標または、商標です。
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