320社以上の企業に人事給与業務のアウトソーシングサービスを提供しているエイチアールワン。同社は受託業務を遂行するため、SAP ERPなど各種システムを利用していますが、これらは従来、国内ベンダーが提供するクラウドサービス上で運用されてきました。しかし、ますます高度化、複雑化する顧客やマーケットの要求に迅速に対応するため、スピードに優れたグローバルスタンダードのクラウドサービスである「Microsoft Azure」への移行を決断。移行パートナーにBeeXを選定し、本番環境・検証・開発環境あわせて約250台のサーバー移行を実行しました。中でもサービス停止が許されない本番環境は2日間という極めて短いダウンタイムでの移行を実現。顧客・サービスへの影響を最小限に抑えることに成功しています。
顧客の増加に対応するため、インフラ環境のクラウド移行を検討
「人事プロセッシングにおけるインフラ機能とプロフェッショナル・サービスの提供を通じて、顧客の安定的な事業運営に貢献する」を経営理念に人事給与業務のアウトソーシングサービスを提供しているエイチアールワン。豊富な実績を持つ同社の顧客は国内有数の大企業から中堅企業まで320社以上、サービス提供人数も37万人を超えています。
同社では、人事給与業務の受託のみならず、同業務に必要となる人事給与システム、勤怠管理システム、従業員による申請システムなどの各種システムを顧客並びに顧客従業員に対して提供しています。
新たな働き方への対応や労働人口の減少をにらみ、コア業務に人員を集中させるため、人事給与業務を始めとしたバックオフィス業務をアウトソーシングする企業は増加しており、エイチアールワンの顧客数とサービス提供従業員数も拡大しています。
こうした状況に対応するためには、システムをスムーズに構築、拡張できるインフラ環境を整える必要があります。同社は 2002年の会社設立当初、自社でハードウェアを購入、データセンターに設置する、いわゆる「ハウジング」の形態でインフラ環境の運用を開始。2008年にはサーバーの仮想化を行いましたが、自社で物理サーバーを所有する運用形態では変化への対応スピードや柔軟性に欠けるため、2013年に国内ベンダーが提供するクラウドサービスへの移行を実行。インフラ環境のあり方を「所有から利用」にシフトし、コスト構造の変動費化、保守業務のサービス化などを実現しました。
そしてさらに5年が経ち、既存のサーバーOSがサポート切れを迎えるタイミングで、インフラ環境のあり方を再検討した結果、セキュリティを含めた最新のトレンドや技術の適応スピード、サービス継続性に優れ、サーバーリソースの拡張が容易なグローバルスタンダードなクラウドサービスへの再移行を決断しました。
「すべてのシステムをAzureに移行」唯一の提案を評価しBeeXをパートナーに選定
新たなクラウドサービスへの移行を決断したエイチアールワンは移行パートナーの選定に入り、RFPを作成、複数のベンダーに対して提案を依頼します。同社としてはSAP ERPの本番・検証・開発環境をはじめ、SAP ERP以外のパッケージシステムや自社開発システムを含め、すべてを新たなクラウドサービスへ移行させることを期待していました。しかし当時は、クラウド環境へ大量の基幹系システムを一度に全面移行したケースは少なく、多くのベンダーが一部システムを既存環境に残したハイブリッドな構成を提案してきました。そんな中、唯一「すべてのシステムを移行できる」と提案したのがBeeXであり、その内容はエイチアールワンの要求を十分に満たしたものであったため、同社はBeeXをパートナーとすることを決定しました。
新たに利用するクラウドサービスは最終的に「Microsoft Azure」を選定。その理由は、エイチアールワンの顧客の多くが委託する情報が秘匿性の高い人事情報であるということからデータセンターを国内に置くことを希望する中で、2016年当時、DRサイトを含め国内に複数の拠点を持っているクラウドサービスはMicrosoft Azureのみだったためです。また、Microsoft社からも全面的な協力を得られる確約が取れたことも大きな要因でした。
わずか2日間というダウンタイムで約120台の仮想サーバーをAzureに移行
エイチアールワンのMicrosoft Azureへの移行プロジェクトは、まず2017年7月から9月までの3カ月で概念検証(PoC)を実施、そこで大規模システムが問題なく稼働することを確認し、2017年12月から本格的なスタートを切りました。
エイチアールワンとBeeXは、その後のプロジェクトをフェーズ1/フェーズ2の2つの作業に分けました。まずフェーズ1(2017年12月~2018年3月)では検証・開発環境の移行、続いてフェーズ2(2018年4月~2019年2月)で本番環境の移行とDR環境の構築を実施しました。移行対象となった仮想サーバーの台数は本番環境と検証・開発環境においてそれぞれ約120台の合計約240台余りです。
フェーズ1で検証・開発環境を先行移行した理由は、スケジュールの都合に加え、顧客へのサービス提供の影響が少ない環境でノウハウを蓄積し、本番環境に備えるためでした。このときは新旧のクラウドサービス(データセンター)を結ぶ移行専用のネットワーク回線を開設。既存システムを稼働させたままバックエンドで約120台の仮想サーバーをオンラインで移行し、計画通りに完了させることができました。特にMicrosoft Azure標準のサーバー移行ツールである「Azure Site Recovery(以降、ASR)」の有効性が確認できたことはフェーズ2で本番環境を移行する上で大きな意味がありました。
フェーズ2における本番環境の移行は、両社で密にコミュニケーションを取りながら慎重に進められました。その中でエイチアールワンが特にこだわったのが3日間のダウンタイム(システム停止時間)で全システムを一括移行することです。年間と月間の繁閑サイクルを考慮すると、システムを止められるのは事実上、2月中旬の3連休に限られていました。BeeXでは当初、複数の期間に分ける五月雨式の移行を検討していましたが、この要望を踏まえ計画の再設計と検証を実施。その結果、1日少ない2日間での一括移行が可能と判断。1日を予備とし、3連休での実施に踏み切りました。
この短期間の移行の裏には、アプリケーションサーバーなど更新頻度の低いサーバーを事前に移行し、当日移行するサーバーの台数を最小化したこと、移行作業を自動化(スクリプト化)・テンプレート化したこと、プロジェクトチーム内における分業体制を確立したことなど、さまざまな工夫がありました。また、本番前のリハーサルにはエイチアールワンのエンドユーザーも参画し、ユーザー目線での問題点のあぶり出しも行っています。こうした取り組みもあって、移行は無事完了。2日間で約120台(SAP ERPとしては11システム 34インスタンス)の仮想サーバーをMicrosoft Azureへ移行することに成功しました。
インフラ環境全体でのコストの最適化と運用の内製化により自社にノウハウを蓄積
エイチアールワンによると、Microsoft Azureへの移行による効果で、まず挙げられるのがインフラ環境にかかるコストの最適化とのこと。開発・検証環境については、使わないときはサーバーを停止させておき、必要なときに立ち上げることが可能になりました。また、顧客の増加についても、サーバーリソースの追加が容易になり、スピーディかつ柔軟な対応が実施できるようになりました。現在では、計画的にReserved Instanceを購入するなど、クラウドサービスならではのコスト最適化策を積極的に活用しながら、システムの効率的な保守・運用に努めています。
また、Microsoft Azure上にDRサイトを構成したので、有事の際は本番環境をASRでフェイルオーバーすることで、BCP対応が実現可能となったことも大きな効果のひとつとして挙げられるとのことです。
運用面では、以前のクラウドサービス利用時はベンダーに運用業務の多くをアウトソーシングしていたため、軽微な対応でも2週間近く要することもありました。
Microsoft Azureへの移行を契機にこの業務の多くを自社での運用に切り替えました。当然、自社での業務負荷は増えたものの、必要なサービスが適切なタイミングで実行できるようになっただけでなく、副次的には最新の技術に触れることで社内のエンジニアのモチベーションの向上が見られるとのこと。今後は自社にノウハウを蓄積し、若手社員を教育しながら、技術レベルのさらなる向上やそれを活かした新サービスの構築を目指しています。
今後の方向性とBeeXへ期待されていること
エイチアールワンは、今後Microsoft Azureを中心としながら、Microsoft Azure Marketplaceの活用を通じたグローバルベースのオープンなシステムとも連携させるなど、より高度で新しく、そして安全なエコシステムの構築を目指していくとのこと。
また、同社は、移行プロジェクトでパートナーを務めたBeeXについて、2日間のダウンタイムで本番環境の移行を成し遂げた技術力、 Microsoft社との調整力は勿論のこと、何より顧客に寄り添い、そのミッション達成に真摯に取組む姿勢を高く評価しています。
そして、そのパートナーシップは移行を終えた今も続いており、BeeXから新たな技術やトレンドの紹介、「困り事」への提案、エンジニアへのサポートなどが得られており、既に幾つかの新たなソリューションを適用し、運用の効率化が実現されています。
更に、現在エイチアールワンがBeeXに最も期待を寄せているのが2027年にサポート切れを迎えるSAP ERPのバージョンアップ対応で、とりわけPoCやアセスメントにおいて、BeeXに大きな期待を寄せています。
人事業務のプロフェッショナル集団として業界の先頭を走るエイチアールワン。BeeXの支援によって実現した新たなインフラ環境は、同社の今後の成長を支える存在になっています。
エイチアールワン株式会社
エイチアールワンは、三井住友信託銀行、パナソニックホールディングス、三菱商事、花王を株主とする人事給与業務および人事給与関連システムの運用を 請け負うアウトソーシング会社です。 顧客は320社、37万人の従業員に及び、特に従業員数が数千人を越える大会社へのサービスに定評があります。
SAP は、ドイツおよびその他の国々におけるSAP SEの登録商標です。
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