目次
2017/8/29、ついに VMware Cloud on AWS(VMC on AWS)が米国西部(オレゴン)リージョンでInitial Availabilityになりました。1リージョンだけのリリースのため一般提供を意味するGeneral Availability(GA)ではなく、Initial Availabilityとい表現にしたようです。ちなみにその他のリージョンは2018年以降に計画とのこと。
VMC on AWS自体は昨年10月に発表があり、ながらく限定的なベータ提供の状態でしたが、今回1リージョンだけとはいえ一般利用が可能になったことで、より具体的に検討できるようになりました。現時点でSAP稼働認定など取り扱いは不明ですが、ユーザさんにとって一番興味があるであろう「もしSAPでこれを使ったら、どのようなメリットが期待されるのか」を玄人目線で考察してみました。
なお発表内容自体は、Publickeyさんの記事がよくまとまっていましたので、本記事ではポイントだけ紹介します。
VMC on AWSとは
「VMC on AWSってパブリッククラウドなの?」という素朴な疑問が浮かびますよね。AWSというキーワードが含まれていますし、オンプレとの対比で「パブリッククラウド」を想像する方がほとんどかと思います。各種メディアによって様々な見解(ホステッド・プライベート・クラウドとか、パブリック、プライベートに続く第3の候補とか・・)がありましたが、明確なものは見つけられませんでした。
ちなみに、VMware社のFAQにあるVMC on AWSの定義は下記の通りです。
What is VMware Cloud on AWS? VMware Cloud on AWS brings VMware’s enterprise-class SDDC software to the AWS Cloud with optimized access to AWS services. Powered by VMware Cloud Foundation, VMware Cloud on AWS integrates our compute, storage and network virtualization products (VMware vSphere, VMware vSAN and VMware NSX) along with VMware vCenter management, optimized to run on dedicated, elastic, bare-metal AWS infrastructure. |
VMC Cloud on AWSにより、VMwareが掲げるエンタープライズレベルのSDDC(Software Defined Data Center)のソフトウェアをAWSクラウドにもたらし、かつそれらはAWSサービスへのアクセスに最適化されているとあります。
具体的にはVMware社の3つの製品(仮想化基盤のvSphere、ストレージ仮想化のvSAN、ネットワーク仮想化のNSX)を統合管理ツールのvCenterで管理することになり、それらが専有型で弾力性のあるベアメタル(OSやソフトウェアなどがインストールされていないまっさらのサーバ、ディスク)で提供されたAWSインフラ上で稼働させるのに最適化されているとのこと。(参考までにVMC on AWSを操作する画面としては、VMC PortalとvCenterの2種類があるようです。)
クラウドの形態としては、パブリッククラウド上へ展開される「バーチャル(仮想)プライベートクラウド」に分類されます。今までの典型的なバーチャルプライベートクラウドとの違いは、仮想マシン単位で提供するのではなく、VMwareを載せた物理サーバで提供される形式である点です。このような物理サーバ単位でホスティング形式で提供する形態を、ホステッド・プライベートクラウドと呼ぶことがあるため、ホステッド・プライベートクラウドと分類することもあります。ただし、典型的なホステッド・プライベートクラウドは、従来のホスティングサービスの延長なため、物理サーバの契約が月単位・年単位だったりするものが通常ですが、今回の発表は時間単位となっており柔軟性が高くなっているのが特徴です。
VMware社は自社でIaaSクラウド(vCloud Air)を展開したものの、早期に撤退し、今後はクラウドを仮想化するサービスの事業者になるというビジョンからして、VMC on AWSをパブリック、プライベート、ホステッドといった区分けに入れるのはあまり意味がないのかもしれません。
参考リンク:
VMware、vCloud Air事業の売却を発表。自社でデータセンターを展開する戦略から撤退、クラウドを仮想化するサービス事業者へ
VMC on AWSは、VMwareが顧客窓口となって販売し、かつサービスとサポートが提供される。
本サービス価格表がAWSではなく、VMware社のサイトに掲載されているのは、上記の背景があるからと考えられます。
VMC on AWSは、AWS社が提供する専有サーバ上に構築される。
AWS EC2は仮想マシン単位での提供となりますが、VMC on AWSではVMwareを載せた物理サーバ単位で提供されます。また、課金体系も物理サーバ単位です。つまりVMware上で何台仮想マシンを動かしても追加課金などされることはなく、物理サーバのスペック内であれば、仮想マシンを自由に配置して利用することが可能となる点が、今までのAWS EC2と異なっているのが大きな特徴です。
物理サーバのスペックは、36コア(72 vCPU)、512GBメモリー、15TB SSD(NVMe)であり、最低4台~最大16台です。(最低台数があることに注意)
ざっくり雰囲気を掴んで頂いたところで、「もしSAPでこれを使ったら、どのようなメリットが考えられるのか」を考察します。
移行が容易になるかも
VMware環境からAWS EC2への移行は、AWSの標準機能であるImport/Exportや、AWS Server Migration Service(AWS SMS)という数回クリックで持ち込めるような移行方法もありますが、VMware上の仮想マシンをAWS上で稼働できるように変換する必要がありました。今回は同じVMware上ですので、このような変換作業は不要になることで移行が容易になります。また、オンプレミスからAWSへの一方通行だけでなく、AWSからオンプレミスへの移行も容易になることから、ワークロードをオンプレミスとAWS上に跨いで最適化することが容易になるのも魅力的です。将来的には vMotionというVMwareの一機能を使うことでオンラインのままAWSへ移行するなども可能となることが期待できます。
古いバージョンのOS,DBMSなど組み合わせたSAP環境を長期維持できるかも
VMC on AWS上で稼働するサポートOSの制約については、現時点明確にはなっていませんが、AWS上ではサポートされないOS種別・バージョンなどでも、VMC on AWS上であれば、サポートされる可能性があります。
またSAP on AWSの場合、例えばOSはWin2008 R2以上、DBはVer.xx以上などサポート制約があります。同様に周辺ソフトウェアでも、バージョンの制約があるものが少なくありません。これらもVMware上でサポートされるものならVMC on AWS上であればサポートされる可能性があります。
VMC on AWS上でも、現在のVMware上でサポートされるOS・DBのバージョンが踏襲された場合は、長期に渡って稼働することを前提とした基幹システムのプラットフォームとしては大変魅力的になりえます。
VMwareのコストを低減できるかも
既存のVMware顧客に対しては「VMware Hybrid Loyalty Program」と呼ぶディスカウントプログラムを提供するようです。これはVMware vSphere、VMware NSX、VMware vSANユーザーを対象としたもので、最大25%のディスカウントが受けられるという内容です。
AWS EC2の標準サービスとして提供されるハイパーバイザー、仮想化ネットワーク、仮想化ストレージを使わずにVMwareを選択し、かつオンプレでも引き続きVMwareを使うハイブリッドクラウド環境を持つ優良顧客向けのように見えますので、ハイブリッドクラウドを啓蒙したいということがわかります。競合であるMicrosoftがAzure利用促進のために積極的にハイブリッドクラウド環境での活用シナリオを提供していますが、VMC on AWSはそこを狙っているのかと考えられます。
パブリッククラウド移行時のミドルウェアの取り扱いで悩みが軽減されるかも
AWSに移行したいが、今使っているソフトウエア製品がサポートされていないという話はずいぶん少なくなったもののありますので、VMWareベースとなることでこのあたりのハードルが更に下がることが想定されます。
一方でAWS上にミドルウェアを持っていこうとすると現行ソフトウェア利用条件から逸脱するため、その対応のためにソフトの買い直しや、高額の費用を支払わねばならないという話は、相変わらずそこら中で起こっています。
例えばSQLServerの場合、AWS上でオンプレで利用していた製品ライセンスを持ち込むための策として物理サーバを専有、つまりAWS EC2上でハードウェア専有インスタンス(Dedicated Instance)にすれば、マルチテナント環境ではないのでライセンス的にOKというのがありますが、VMC on AWSはそもそも専有サーバになりますので、ここは問題にはなりません。
コスト的には、小規模であればAWS EC2上でDedicated Instanceとした方が安価ではありますが、大規模構成になるとコストメリットがでてきます。特にオンプレミスとAWS上でワークロードを柔軟に行き来できるようにする場合は、クラウド持ち込みの際のライセンス追加などを、いちいち考慮しなくて良くなる点は、柔軟性という点では魅力といえます。
参考リンク:
SAP用途でパブリッククラウド上で使用可能なOSとDBの組み合わせ(SQLServer,Oracle,HANA編)
AWSとの連携が容易に
VMC on AWSを選択した場合、基盤はAWS上にシステムが構築されますので、AWSの各種サービスとの連携、AWS上に構築したシステムとの通信をAWS内で実施することが出来るようになります。例えば、AWSのVPCと、VMC on AWSのVPC間の通信は、VMware Cloud Endpointsという新たなEndpointsを通じて通信ができるようになるようです。
VMC on AWSは、今までAWSが苦手としていた、オンプレミスとクラウド上を横断的に使用するハイブリッドクラウド形態を実現する一手となります。またVMwareにとってもAWSの豊富なリソースを利用することにより、ハイスペックな物理サーバを時間単位で提供することが可能な柔軟な基盤環境を提供することが可能となります。
長文最後までお読み頂きありがとうございました。