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「自社のクラウド設計、本当にこのままで大丈夫かな…」と感じたことはありませんか?
AWSでインフラを構築したものの、時間が経つと「この構成って、最適なんだろうか」と不安になる場面はよくあります。セキュリティの抜け漏れ、リソースの無駄な消費、障害に弱い設計など、クラウドの落とし穴は意外と多く、気づかないうちに問題を抱えてしまっているケースも少なくありません。
しかも、設計が正しいかどうかを判断するのは簡単ではありません。周りに相談できる専門家がいなかったり、そもそも「設計を評価する」という文化自体が社内に根付いていないこともあります。
そんなときに頼りになるのが、AWS公式の「Well-Architected フレームワーク」です。このフレームワークは、クラウド設計を6つの観点からチェックし、課題を洗い出して改善につなげるための“設計評価のものさし”です。
この記事では、「AWS Well-Architected フレームワークとは何か?」という基本から、2025年時点の最新構成である6つの柱について、実例や使い方を交えながらわかりやすく解説していきます。クラウド設計に迷ったら、まずはこのフレームワークを知ることから始めてみませんか?
AWS Well-Architected フレームワークとは?
AWS Well-Architected フレームワークとは、クラウド環境におけるシステム設計と運用の品質を評価するための、AWS公式の指針です。このフレームワークは、アーキテクチャに関する課題やリスクを明確化し、継続的な改善を可能にするための考え方やツールを提供しています。
その中心にあるのが、「6つの柱」と呼ばれる評価軸です。以前は5つの柱で構成されていましたが、2022年に「持続可能性(Sustainability)」が追加され、現在は以下の6つの観点から設計を見直す構成となっています。
運用上の優秀性(Operational Excellence)
セキュリティ(Security)
信頼性(Reliability)
パフォーマンス効率(Performance Efficiency)
コスト最適化(Cost Optimization)
持続可能性(Sustainability)
それぞれの柱には、詳細なベストプラクティスと設問が設定されており、「現在の構成に潜むリスク」や「今後強化すべきポイント」を把握することができます。
たとえば「セキュリティ」の柱では、アクセス制御、データ保護、インシデント対応の体制などを評価し、外部攻撃や内部不正に強い設計かどうかを確認します。一方「コスト最適化」では、使っていないリソースが無駄に動いていないか、予算と照らし合わせて合理的な設計かどうかを見ていきます。
また、これらを実際に評価するための専用ツール「AWS Well-Architected Tool」も用意されています。Web上で質問に答えていく形式で、自社システムの状態を“見える化”し、AWSの推奨構成と比較しながら改善点を明確にできます。
このフレームワークを活用することで、設計の曖昧さを排除し、より信頼性が高く、効率的で、コストにも環境にも優しいクラウド運用を実現するための一歩を踏み出すことができます。
クラウド設計のベストプラクティスを学ぶ
クラウド環境での設計には、オンプレミスとは異なる「考え方」が必要です。スケーラビリティ、可用性、コスト効率、セキュリティ対策など、すべてがクラウド特有の視点で見直されるべき要素です。AWS Well-Architected フレームワークは、そうした設計上の不安や判断ミスを避けるための“道しるべ”として活用できます。
このフレームワークが提示する6つの柱は、それぞれが設計の中核に直結しており、全体像を網羅的に把握するための視点を提供します。たとえば、システムの信頼性を高めるためには、障害発生時のフェイルオーバー構成やバックアップ体制を整える必要があります。一方で、パフォーマンス効率を求めるなら、負荷の特性に合わせたインスタンスタイプの選定や、コンテンツのキャッシュ戦略も見逃せません。
また、AWSの設計ベストプラクティスは静的なものではなく、サービスや機能の進化に合わせて常に更新されています。2025年現在では、サステナビリティ(環境への配慮)も設計要素として組み込まれるようになり、ITインフラが社会的責任を果たすべき領域にまで広がってきています。
こうした多角的な視点を意識した設計を行うためには、自社の構成を客観的に振り返り、「なぜ今の構成なのか」「もっと良い手段はないのか」と常に問い直す姿勢が求められます。Well-Architected フレームワークは、まさにその問いかけを“見える形”で実践できる仕組みなのです。
設計の品質を上げたいと考えているすべての方にとって、このフレームワークは学ぶべき必須知識と言えるでしょう。
フレームワークが提供する6つの柱とは
フレームワークが提供する6つの柱とは
AWS Well-Architected フレームワークの中心には、「6つの柱(ピラー)」と呼ばれる評価基準があります。これらは、クラウドアーキテクチャの設計・運用を多角的に見直すための指針です。
運用上の優秀性(Operational Excellence)
セキュリティ(Security)
信頼性(Reliability)
パフォーマンス効率(Performance Efficiency)
コスト最適化(Cost Optimization)
持続可能性(Sustainability)
この6つの柱をベースにしたレビューと改善を繰り返すことで、システムはより安定し、クラウドのメリットを最大限に引き出すことができます。
次のセクションでは、それぞれの柱について実践的に深掘りしていきます。
AWS設計6つの柱を徹底解説【2025年版】
AWS Well-Architected フレームワークにおける「6つの柱(6 Pillars)」は、クラウド設計と運用の品質を多角的に評価するための基準です。それぞれの柱は独立しながらも相互に関係しており、片方をおろそかにすると、他の領域にも影響が及びます。そのため、“全体最適”を目指すバランス感覚が求められるのです。
以下がその6つの柱です:
運用上の優秀性(Operational Excellence)
セキュリティ(Security)
信頼性(Reliability)
パフォーマンス効率(Performance Efficiency)
コスト最適化(Cost Optimization)
持続可能性(Sustainability)
たとえば、運用上の優秀性(Operational Excellence)は、システムの可視化やインシデント対応、変更管理など、日常の運用業務に焦点を当てた視点です。効率的かつ安定した運用体制を構築することで、障害発生時にも迅速かつ適切な対応が可能になります。
また、セキュリティ(Security)においては、アクセス制御やデータ暗号化、監査ログの整備といった、リスクを未然に防ぐための構成が求められます。ここでのミスは、サービス全体の信頼性を揺るがしかねません。
さらに、2022年から加わった持続可能性(Sustainability)は、今後ますます重視される柱です。環境負荷の低減やエネルギー効率の改善など、社会的責任の一環としてクラウド設計にも環境配慮が求められるようになってきました。
このように、各柱は「システムをどう設計し、どう運用し、どう進化させていくか」を考えるうえでの重要な視点を提供してくれます。AWS Well-Architected フレームワークを活用することで、これらの柱に基づいた設計改善が体系的に進められるようになるのです。
このあと、それぞれの柱について具体的に解説していきます。自社環境のどこに課題があるのかを見極めるための参考として、ぜひ各項目を丁寧にチェックしてみてください。
運用上の優秀性(Operational Excellence)と自動化の関係性
運用上の優秀性(Operational Excellence)は、AWS Well-Architected フレームワークの中でも“日常運用”に直結する柱です。これは、システムが正常に機能し続けるための運用体制やプロセスに関わる要素を評価するもので、改善のサイクルを止めずに継続する姿勢が求められます。
この柱で特に重視されているのが、自動化の活用です。手作業に依存した運用は、ミスや対応遅れの温床になりがちです。たとえば、インフラの更新作業を手動で行っている場合、担当者による作業ミスや確認漏れがシステム障害に直結する恐れがあります。
そのため、運用上の優秀性(Operational Excellence)の実現には、Infrastructure as Code(IaC)のような技術を使って、インフラ構成をコード化し、変更履歴をトラッキングできるようにすることが推奨されています。また、Amazon CloudWatchなどを用いて、監視とアラートの自動化を行うことで、障害の兆候をいち早く検知し、被害を最小限に抑えることが可能になります。
さらに、定期的なレビュー(Postmortem)とナレッジ共有も不可欠です。障害対応後に原因と対応内容を分析し、再発防止の仕組みを組み込むことで、組織としての運用能力が蓄積されていきます。こうした改善のサイクルを明文化・自動化することで、より洗練された運用が実現します。
つまり、運用上の優秀性(Operational Excellence)を高めるためには、“人ががんばる運用”から“仕組みで支える運用”へと発想を切り替えることが必要です。そしてそれは、組織全体の安定運用と、将来的なスケーラビリティにも直結する取り組みと言えるでしょう。
セキュリティ設計の要点とAWS WAF活用
セキュリティ(Security)は、AWS Well-Architected フレームワークの中でも特に重要な柱です。なぜなら、セキュリティの不備は情報漏洩、サービス停止、法的リスクといった重大な問題を引き起こすからです。クラウドだからといって“自動的に安全”ということはなく、設計者側の意識と実装レベルがすべてを左右します。
この柱では、データの保護、アクセス管理、インシデント対応の体制など、多岐にわたる観点からセキュリティ体制を評価します。まず基本となるのが、IAM(Identity and Access Management)を使った適切なアクセス制御です。最小権限の原則(Least Privilege)に基づいて、誰が何にアクセスできるのかを明確に管理し、不要な権限はすぐに削除する体制が必要です。
また、データの保存と通信には暗号化を適用するのが基本です。Amazon S3やRDSなどのサービスは、サーバー側の暗号化(SSE)を簡単に有効化でき、トラフィックについてもSSL/TLSによる暗号化が推奨されます。
さらに、実際のセキュリティ対策の一環として有効なのが AWS WAF(Web Application Firewall) の導入です。これは、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)などのWeb攻撃からアプリケーションを防御するサービスで、Amazon CloudFrontやApplication Load Balancerと連携して利用します。
AWS WAFでは、あらかじめ用意されたルールセットに加え、自社独自のルールを追加することもできます。たとえば、特定のIPからの過剰なリクエストをブロックしたり、特定のパターンを含むリクエストを遮断したりする設定が可能です。これにより、サービスが狙われるリスクを大きく軽減できます。
そして見落とされがちですが、ログの取得とモニタリングもセキュリティの要素の一つです。AWS CloudTrailやAWS Configを活用し、誰が何をしたかを常に記録しておくことで、万が一の時も原因究明が迅速に行えます。
セキュリティは一度作って終わりではなく、常にアップデートが必要な領域です。攻撃手法は進化し続けており、それに合わせた柔軟な対応とツールの活用が求められます。
信頼性を担保する設計手法とは?
信頼性(Reliability)は、AWS Well-Architected フレームワークにおいて、システムが期待通りに稼働し続けるために必要な“設計上の土台”を指します。可用性、障害からの復旧力、そして構成変更時の柔軟性を担保することが、この柱の中心的なテーマです。
まず、最も基本となるのが冗長構成の実装です。単一のEC2インスタンスや単一のAZ(アベイラビリティゾーン)に依存する構成は、どこか一箇所が障害を起こせば、システム全体が停止してしまうリスクをはらんでいます。そのため、マルチAZ構成やオートスケーリンググループの活用により、障害発生時にも自動的にリソースを切り替えられる設計が重要です。
次に挙げられるのが、バックアップとリカバリ計画の整備です。Amazon RDSやEBSではスナップショットを定期的に取得し、意図しないデータ損失時にも迅速に復旧できる体制を整えておくことが求められます。また、Amazon Route 53を用いたヘルスチェックとルーティングポリシーによって、ユーザーを稼働中のリージョンに自動で誘導する仕組みを持たせることも有効です。
さらに、構成変更時の影響を最小限に抑える変更管理の設計も信頼性に大きく関わります。たとえば、AWS CloudFormationによるインフラ構成のコード管理を行えば、変更履歴の追跡やロールバックが可能になり、“構成変更による障害”を避けることができます。
そして重要なのが、モニタリングとアラート設計です。Amazon CloudWatchを活用してシステムの各種メトリクスを可視化し、閾値を超えた場合には即座に通知される仕組みを導入しておくことで、トラブルの予兆を早期に察知できます。
信頼性(Reliability)は、“何も問題が起きていないとき”の設計が、そのまま“問題が起きたとき”の対応力を決定します。だからこそ、「障害が起きても止まらない設計」を日常から意識しておくことが、堅牢なシステム運用につながるのです。
パフォーマンス効率の高いアーキテクチャ構築
パフォーマンス効率(Performance Efficiency)は、クラウドの特性を最大限に活かし、変動する負荷にも柔軟に対応できる構成を作るための視点です。リソースを“過不足なく”使いこなし、最小のコストで最大の処理能力を得るには、設計段階での最適化が欠かせません。
まず重要なのは、ワークロードに適したリソースの選定です。たとえば、EC2インスタンスの選択では、CPUやメモリのスペックだけでなく、インスタンスファミリーの特徴も加味する必要があります。汎用的なtファミリーに加えて、コンピューティングに特化したcファミリー、メモリ最適化のrファミリーなど、用途に合わせた使い分けが求められます。
次に意識すべきは、スケーラビリティの設計です。AWSでは、Auto ScalingやElastic Load Balancingを活用することで、トラフィックの増減に応じて自動でリソースを調整できます。これにより、アクセスが集中した際にもシステムがダウンせず、ピークタイム以外は無駄なリソースを動かさずに済みます。
また、マネージドサービスやサーバーレスアーキテクチャの活用も、パフォーマンス効率の向上に大きく貢献します。たとえば、AWS LambdaやAmazon DynamoDBなどは、自動的にスケールし、インフラの管理を大幅に軽減してくれます。これにより、開発者はインフラの調整ではなく、アプリケーションの機能に集中できます。
さらに、キャッシュ戦略の最適化も忘れてはならないポイントです。Amazon CloudFrontによるコンテンツ配信や、ElastiCacheによるデータベースレスポンスの高速化など、処理負荷の分散と応答速度の改善は、ユーザー体験を左右する大きな要素です。
パフォーマンス効率(Performance Efficiency)は、単に“速い”だけでなく、“柔軟で無駄のない”設計を実現するための考え方です。クラウドの力を引き出すには、こうした設計方針を土台に据えることが不可欠です。
コスト最適化と無駄のない設計実践
コスト最適化(Cost Optimization)は、AWS Well-Architected フレームワークの中でも、非常に現実的かつ継続的な課題に直結する柱です。クラウドは初期コストを抑えられる一方で、使い方を誤れば“見えにくいコスト”がどんどん膨らむ可能性があります。つまり、設計時点から“不要な支出を防ぐ視点”を取り入れることが必要不可欠です。
まず取り組むべきは、リソースの適正配置と利用状況の可視化です。たとえば、開発環境に使われているEC2インスタンスが夜間や週末にも稼働しっぱなしになっていないか、あるいは一時的な検証で立てたリソースをそのまま放置していないか。こうした「無意識の浪費」は意外と多く見られます。
AWSでは、Cost Explorer や AWS Budgets を使って、使用状況の可視化と支出の監視が可能です。特定のサービスが異常にコストを食っていないか、事前に予算を設定して通知を受ける体制を作ることで、“気づいたときには予算オーバー”という事態を防げます。
次に考えるべきは、料金プランの最適化です。長期間安定して使うインスタンスには、オンデマンドよりも リザーブドインスタンス(RI) や Savings Plans の導入が有効です。これにより、利用量に応じたコストを最大70%以上削減できるケースもあります。
また、設計そのものの見直しも、コスト削減に直結します。たとえば、Lambdaなどのサーバーレス構成への移行により、実行時間に応じた課金に変わり、インフラ常時稼働にかかる無駄なコストを排除できます。さらに、Amazon S3のストレージクラスをアクセス頻度に応じて使い分けることで、保存コストも最適化できます。
つまり、コスト最適化(Cost Optimization)とは、「安く作る」ことではなく、「価値に見合った費用で運用する」ための取り組みです。予算の上限を守りつつ、必要な性能や信頼性を確保するというバランスが問われる領域なのです。
持続可能性(Sustainability)の導入
持続可能性(Sustainability)は、2022年に新たに追加されたAWS Well-Architected フレームワークの第6の柱です。クラウドインフラにおいても、環境への影響を“見て見ぬふり”することはもはや許されない時代です。エネルギー消費の最適化や二酸化炭素排出量の削減といった課題は、企業の社会的責任として明確に問われ始めています。
この柱では、クラウドリソースの使用量を最小限に抑えながら、必要な性能や可用性を維持する「効率的な設計」が求められます。無駄な処理を減らすことは、電力消費を削減することにつながり、それがそのままカーボンフットプリントの削減にも貢献します。
具体的には、次のような施策が推奨されます:
非稼働時間帯のリソース停止:開発用インスタンスやテスト環境をスケジュールで停止する。
効率的なコード設計:アルゴリズムやクエリの最適化で、不要な計算処理を減らす。
マネージドサービスの活用:AWSの運営するサービスは、データセンターの電力効率も高く設計されているため、自己管理のサーバーよりも省エネに寄与します。
データライフサイクルの最適化:使用頻度の低いデータをS3 GlacierやS3 Intelligent-Tieringに自動で移行することで、保存にかかるエネルギーとコストを抑える。
また、AWS自体も2030年までにすべてのインフラを100%再生可能エネルギーで運用することを目指しており、ユーザー側の協力も不可欠です。持続可能性(Sustainability)は単なるコスト削減策ではなく、「地球環境への配慮」という視点から、システム設計に新たな意味を与える柱なのです。
“誰のために、どんな技術を選ぶのか”。この問いに対して、「未来世代のために」という答えを含めることが、これからのクラウド設計のスタンダードになっていくでしょう。
AWS Well-Architected Toolでレビューする手順
AWS Well-Architected フレームワークを実際の設計に活かすための“実践ツール”が、AWS Well-Architected Toolです。このツールは、AWSマネジメントコンソール上から無料で利用でき、設計レビューを効率的かつ体系的に行うために開発されたものです。
使い方はシンプルで、6つの柱それぞれに対する質問に答えていく形式となっています。たとえば、「セキュリティ」に関しては「アクセス制御は適切か?」「暗号化はどの範囲で実施しているか?」など、具体的な設計判断に直結する問いが投げかけられます。回答は「はい/いいえ/わからない」といった選択式で、回答結果に基づいて改善が必要な項目(リスク)がリストアップされる仕組みです。
このプロセスにより、自分たちが見落としていた設計上の穴や、改善の余地があるポイントを客観的に把握することができます。特に重要なのは、単にリスクを洗い出すだけでなく、そのリスクに対する推奨アクションまで提示してくれる点です。これにより、改善の方向性を見失わず、次のステップにスムーズにつなげることが可能になります。
また、レビューは1回きりではなく、定期的に繰り返すことが推奨されています。システムは時間とともに変化します。新しい機能が追加されたり、ユーザー数が増えたりすれば、設計にも影響が出てきます。そうした変化に対応するためにも、四半期ごとのレビューや大規模なアップデート前後の見直しが有効です。
AWS Well-Architected Toolは、単なる診断ツールではなく、継続的な設計改善のための“習慣づけ”を助ける存在です。レビュー結果を定期的に蓄積し、変化をトラッキングすることで、自社の成長に合わせた最適なアーキテクチャへと自然に導いてくれるでしょう。
AWS Well-Architected Toolの基本操作
AWS Well-Architected Toolは、AWSマネジメントコンソール上からアクセス可能なレビュー支援ツールです。使い方は直感的で、AWSアカウントさえあれば誰でも無料で利用できます。レビューを通じて自社システムの課題を可視化し、改善アクションを明確にすることがこのツールの役割です。
まずは、コンソールから「AWS Well-Architected Tool」を開きます。そして、レビューを行いたいワークロード(サービス群やプロジェクト単位)を登録し、レビュー対象として選択します。ワークロードには名前や説明、リージョンなどを設定し、システム全体の概要を整理します。
次に進むのが、6つの柱に関する質問への回答です。それぞれの柱ごとに数十問の質問が用意されており、選択肢から回答していきます。たとえば、「セキュリティ」カテゴリでは、「すべてのデータは保存時および転送時に暗号化されていますか?」といった設問が出されます。この質問に対して「はい」「いいえ」「わからない」などで回答しながら進めます。
すべての質問への回答が完了すると、ツールが自動的に“リスクあり”の項目をリストアップしてくれます。ここで提示されるリスクには、具体的な改善アクションとAWSのベストプラクティスへのリンクが添えられており、そのまま改善活動に着手できるようになっています。
さらに、レビュー結果はダウンロードや共有が可能で、チーム内での情報共有やドキュメント化にも活用できます。定期的にレビューを行い、過去の結果と比較することで、自社の設計がどう進化しているかも確認できるのです。
このように、AWS Well-Architected Toolは、知識や経験に関係なく誰でも“体系的なレビュー”を行える仕組みを提供してくれます。日々の業務に追われて設計の見直しが後回しになっている方こそ、一度このツールを試してみる価値があります。
設計レビューのフィードバックをどう活かす?
AWS Well-Architected Toolを使ってレビューを実施したら、次に重要になるのは**“得られたフィードバックをどう改善に活かすか”**という点です。単にリスクを見つけて終わるのではなく、その後のアクションに落とし込めるかどうかが、設計改善の成否を左右します。
まず最初にすべきことは、レビュー結果を**“チーム全体で共有”**することです。改善点は開発者やインフラ担当だけでなく、SREやセキュリティチームなど複数の関係者に関係するため、関係者を巻き込んだレビュー会議やドキュメント化が効果的です。AWS Well-Architected Toolでは結果をPDFやCSVで出力できるため、定例会やプロジェクトキックオフ資料にも活用しやすい形式です。
次に取り組むべきは、リスクの優先順位づけです。すべてを一度に対応するのは現実的ではありません。そこで、「事業への影響が大きい」「セキュリティリスクが高い」「低コストですぐに対応可能」といった視点で分類し、段階的に改善プランを策定します。
また、改善の実行フェーズでは具体的なタスク化とオーナーの明確化が欠かせません。JiraやBacklogといったチケット管理ツールと連携し、「CloudWatchアラート設定の見直し」「IAMロールの整理」といったアクションを1つずつ洗い出して担当者をアサインします。
改善後も再レビューを忘れてはいけません。設計は“生きもの”です。新しいサービスの追加やアーキテクチャの変更があれば、以前のレビュー結果はすぐに陳腐化してしまいます。四半期に一度など定期的なサイクルを設けることで、設計の品質を常に最新の状態に保てるようになります。
こうしたレビュー→改善→再レビューという“設計改善のループ”を社内文化として定着させることが、Well-Architected フレームワークの真価を引き出すポイントです。単発で終わらせず、“継続的に進化する設計”へと導く視点が、これからのクラウド時代には欠かせません。
よくある課題と失敗パターン
AWS Well-Architected フレームワークを導入・運用していく中で、多くの組織がぶつかるのが、「理論は分かったけれど、実際にはうまくいかない」という壁です。フレームワーク自体は完成度の高いガイドですが、現場での実装には思わぬ落とし穴があるのも事実です。
最もよくあるのが、レビューを実施しただけで満足してしまうケースです。設問に答え、リスクを洗い出したところで「やった感」が出てしまい、そのまま改善活動に着手しない、または改善案が抽象的すぎて実行に移せないことがあります。レビューはスタートであって、ゴールではありません。
また、「全部を完璧にしようとする」罠も見逃せません。6つの柱すべてを一気に整備しようとして、結局どれも中途半端に終わってしまう――というのは、特にリソースの限られた現場でありがちな失敗です。本来は、自社の課題に優先順位をつけて段階的に取り組むべきです。
技術的な面では、誤ったスケーリング設計やリソースの過剰プロビジョニングがしばしば問題となります。例えば、Auto Scalingが正しく設定されておらず、トラフィックの急増に対応できなかったり、常時大きなインスタンスを動かし続けてコストを圧迫していたりすることがあります。これはパフォーマンス効率やコスト最適化の観点から見た典型的な失敗例です。
さらに、チーム内でフレームワークが共有されていないことも、長期的な設計改善を阻害します。レビューの知見が属人化してしまうと、退職や異動によってナレッジが失われ、継続的な改善サイクルが回らなくなります。
これらの課題に共通して言えるのは、「フレームワークを“理論”ではなく“習慣”として根付かせる」ことができていない点です。AWS Well-Architected フレームワークは、使いこなしてこそ意味があります。そしてそのためには、技術面だけでなく、チーム運用や文化としての定着が必要なのです。
設計に潜む見落としポイントを見抜く
AWS Well-Architected フレームワークに沿って設計を進めていても、「あ、そこ見落としてた…」というポイントは意外と多く存在します。特に、日常的な運用に追われる現場では、“目の前の安定稼働”に意識が向きすぎて、長期的な設計改善が後回しになりがちです。
まず見落とされやすいのが、可用性の甘さです。システムが「とりあえず動いている」状態に安心してしまい、マルチAZ構成が不完全だったり、フェイルオーバーの検証が一度も行われていなかったりするケースは少なくありません。障害が発生して初めて、その脆さに気づくのはよくある話です。
次にありがちなのが、アクセス制御の粗さです。IAMポリシーが過剰に広く設定されていたり、サービスごとにロールが適切に分離されていなかったりといった状況は、セキュリティリスクを招く原因になります。ログを有効化していない、通知設定が不十分といった「モニタリングの見落とし」も、発見が遅れやすいポイントです。
また、コスト設計においても油断が生まれやすいです。例えば、Auto Scalingが設定されていないためにピーク時以外でも大きなインスタンスが稼働し続けていたり、ストレージに古いログが溜まり続けていたりするなど、“気づかぬ浪費”が発生しやすいのです。
そして、意外に多いのが、サービス選定そのもののミスマッチです。本来サーバーレスで十分だった構成を、習慣的にEC2で構築してしまっていたり、手作業で管理している構成をマネージドサービスに移行せずに放置しているケースも見られます。こうした見落としは、時間とリソースを静かに奪っていきます。
だからこそ、設計レビューでは「何かを見つけてやろう」という視点よりも、「何かを見落としていないか?」という問いを持つことが重要です。設計の“前提”を疑う姿勢が、リスクを未然に防ぎ、より洗練されたアーキテクチャへとつながるのです。
BeeXとともに進める“クラウド設計の継続的改善”という選択
ここまでAWS Well-Architected フレームワークの考え方と実践方法を解説してきましたが、「実際にここまで手を動かす余裕がない」「レビューの結果をどう改善につなげるべきか迷っている」と感じた方も多いのではないでしょうか。
特にエンタープライズ規模のシステムでは、クラウド設計・運用の課題は非常に多岐にわたります。アーキテクチャの見直しだけでなく、コストの最適化、セキュリティポリシーの整備、さらには開発・運用チームとの連携体制の確立まで――こうした複雑な取り組みを、社内リソースだけで継続的に回していくのは容易ではありません。
そんな中でご紹介をしたいのが、BeeXの「AWSクラウド伴走型支援サービス」です。
このサービスは、クラウド導入から運用、改善までの全プロセスに寄り添い、お客様のクラウド活用を“チームごと支える”伴走型支援を提供しています。単なるコンサルティングに留まらず、実行可能な改善プランの立案から実装支援、効果検証までを一貫して対応。現場の課題に即した、実務レベルのノウハウを活用できるのが大きな特長です。
「AWSクラウド伴走型支援サービス」は以下の3つの専門サービスで構成されています。
- 継続的改善サービス with AWS Well-Architected
AWS Well-Architected Frameworkに基づき、定期的なアーキテクチャレビューと改善施策を実施。3ヶ月ごとの改善サイクルで、設計の堅牢性と運用の成熟度を着実に高めていきます。 FinOps実践支援サービス
クラウド利用料の可視化・分析を行い、費用対効果の高い運用を実現。不要な支出を削減しつつ、リソースの再配置や適正化を提案します。内製化支援コンサルティング
社内チームの育成や運用体制の確立を支援。技術だけでなく、組織として“クラウドを使いこなせる”状態を目指します。
BeeXは、これらのソリューションを通じて、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、ビジネスの価値創出をクラウドの力でサポートします。単なる構成改善ではなく、“クラウドを使って何を実現したいか”というビジョンに寄り添い、伴走します。
もし、Well-Architectedの実践に手が回らない、専門家の目線で設計を見直したい、という悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

設計ミスを防ぎ、理想のクラウド基盤を構築しよう
AWS Well-Architected フレームワークは、クラウド設計を「なんとなく」から「根拠ある判断」へと引き上げる強力な手段です。6つの柱によって、信頼性・セキュリティ・コスト・パフォーマンス・運用効率・持続可能性のすべてを網羅的に見直せるため、システムの抜けや偏りを未然に防ぐことができます。
とはいえ、フレームワークを理解し、設計に反映し、さらに改善を繰り返すとなると、現場では「時間が足りない」「技術的に不安がある」「社内で協力が得られない」といった悩みが出てきます。そうした課題を前に、一歩が踏み出せずにいる方も少なくないでしょう。
だからこそ大切なのは、“完璧”を目指すのではなく、“一歩ずつ改善すること”です。そしてその改善を止めないためには、社内リソースだけで抱え込まず、信頼できるパートナーと協力することも立派な戦略のひとつです。
BeeXでは、AWS Well-Architected Frameworkの活用を軸にした「継続的改善サービス」や「FinOps実践支援サービス」を通じて、お客様のクラウド活用を全方位から支援しています。
「レビューをしたけど改善方法が分からない」「もっと効率的に運用を回したい」そんなときは、ぜひBeeXまでお気軽にご相談ください。
設計ミスを未然に防ぎ、理想的なクラウド基盤を築くために。AWS Well-Architected フレームワークを活かして、堅牢で柔軟なインフラづくりを、一緒に進めていきましょう。